最終回 社会運動としての低消費・脱労働
ーー連帯に難渋しているという話になりましたが、ばたおさんの活動は社会運動としての側面がなかなか注目されないのかなと思います。やはり低消費・脱労働を前面に出すと、個人主義的なスローライフか何かと勘違いされたりしませんか。
ただのスローライフでもいいと思うんですよ。ただ、ぼくとだめおさんは違うんですね。そういう人たちとぼくたちとの最大の違いっていうのは、たぶんぼくら日本で唯一だと思うんですけど…唯一でもないかな、それちょっと驕りすぎ(笑)まあ…ぼくたちもシェアハウス・自給自足を核に生活圏づくりをやっているんですけど、それだけでは権力に潰されると思っていて。ぼくとだめおさんは元々社会運動の出身なので、そういう意識があるんです。Twitter始めて分かったんですけど、そういうスローライフというか低消費・脱労働生活をしている人は全国に結構いらっしゃるんですよ。ただこれって社会に、国家に、資本主義に全然貢献していないんですよね。もちろんぼくらとしてはそのほうがいいんですけど、既存の体制にとってはイヤなんですよね。やっぱりバリバリ働いてくれんと困るわけで。それに、そういう異質な連中って何やらかすか分からないし、治安を脅かす存在なんで。ものすごく有り体に言えば、政治に物申していかないと、自分達のミクロな共同体は潰されると思うんです。
ぼくは暫定的に“ミクロな社会主義”と呼んで運動の拠点・生活圏作りをやっているんですけど、ただやっぱり今の社会って競争社会・資本主義社会なわけで、その中で自分たちだけが完全に自立・脱出できるわけではないと思うんです。ぼくらだって資本主義社会の中でフリーライドしてる側面も大いにあるので。だからミクロな次元だけじゃ完結しないというか。たしかにミクロな社会主義とか言って調子に乗っていても資本主義社会の恩恵に大いに与っているんですけど、だからこそ“マクロな社会主義”を目指すというか。社会主義と言ってもすごく抽象的な話で、これもとりあえず暫定的にそう呼んでいるだけなんですけど。まあ…ここで言う社会主義というのは、相互扶助とか協同とかそういう意味で捉えていただきたいんですね、今の体制とは違うという意味で。自分たちだけで小さくまとまっているだけじゃなくて、自発的に社会に主張を発信していかないと、今は見過ごされているけど何かあったときはすぐにスケープゴートの対象になって、潰されるとぼくたちは思っているんです。ただ、これに共感してくれる人が皆無なので…。
ーー我々もばたおさんと概ね同じ考えですよ。今のショボいレベルでは歯牙にもかけられないでしょうが…。
たぶん他の人たちってそういうこと考えたこともない人が大半なんですよね。別に彼ら彼女らを批判するわけじゃなくて、別にそれはそれでいいんやけど、ぼくらからすると考え方が甘いのかなって。まあ、こういうことを言うからぼくらは低消費生活勢の中で嫌われるんですけど(笑)
ーー嫌われるんですか(笑)
たぶんね、けっこう嫌われているんですよ。Twitterでこの人面白いなと思ってフォローしてもいつの間にかブロックされていたりとか…。そういうドロップアウト勢って政治とか嫌いな人多いのでしゃあないのかなと。まあ気持ちはわかるんですよ。仕事はしたくないし、政治にも幻滅して関わりたくないからこそドロップアウトしているわけだから。ただ、ぼくとだめおさんはその辺をちょっとこだわっているっていう。
ーー半自給にしても、単に安く済ませるというだけではなく資本主義社会への対抗でもあるとおっしゃっていましたね。
もちろん日本の国内にも深刻な格差があるんですけど、それでも日本が世界的に相当豊かに暮らしているのは、南北格差を利用した経済的な恩恵に与っているからで。それを考慮すれば、他者から収奪せずに自分達だけで完結するというか、大量生産・大量消費・大量廃棄のスピード社会みたいなものを作らずにやっていくっていうのは実は強烈な社会運動であり、政治運動である。賃労働を拒否しつつ、ささやかながら自給自足をしていくのは、実は他者への抑圧とか自然環境からの収奪などにも対抗しうるということが理念としてあるんです。特にだめおさんはそういう意識が強い。ぼくはただ単に働きたくないっていうのもありますけど(笑) でも、そのへんの意識はグラデーションでいいと思うんですよ。
ーー平均的な人々は社会運動と聞いてもデモくらいしか思い浮かべないのではないでしょうか。
デモは気軽で簡単にできる社会運動・異議申し立てとして重要です。そして、何よりもそれこそが連帯や団結の経験になります。ただ、それはあくまで出発点に過ぎず、それだけではあまり意味がないと思っていて。自分でどうやって生活を作っていくのかという視点がないと現実的に何も変わっていかないので。デモとか陳情とかも大事だけど、それだけじゃ全然足りないし、つまらないなと思います。普段はサラリーパーソンとして平日バリバリ働いて、ちょっと土日の休みにデモでもやるかっていうの。まあぼくらもやりますし、やらんよりは断然いいと思うんですけど、平日にどうやって生活してるかが重要でしょっていう。ただ、これもそういう問題意識を持った人がほとんどいないので。
ーー今回のインタビューがその問題意識を共有する同志と連帯する一助となることを切に願う次第であります。記事を読む人の中にそうした人がいるかもしれません。最後に同じような志を持つ人たちに何か一言いただけないでしょうか。
諦念を抱きつつ、できることからボチボチやりましょう。まあ、そんな感じです。
ーーできることから。
できることから始めるしかない。結局。完璧にやろうとしたら何も進まないから。ぼくらも全然完璧じゃないし。本当にできていることもあれば大言壮語なこともあるので。
ーーそうですね。
それと、仲間はいつでも募集していますので。関心のある方はとりあえず話だけでもしましょう。
ーー本日はありがとうございました。
このインタビューは2016年秋、河内長野市内の某喫茶店で行われたものである。インタビューを終え、お茶の代金を支払おうとすると、ばたお氏は「いやいいよ、お金ないんでしょ」と言い、すべて払ってくださった。取材を受けさせておいてお茶をおごっていただく形になってしまった!(本当に申し訳ありません)
我々の取材には至らぬところも多々あったと思うが、経験皆無の素人故、何卒ご寛恕いただきたい。金と時間とやる気の許す限りこれから経験を積んで邁進する所存である。
繰り返しになるが、ばたお氏はいつでも同志を募集中とのことである。関心のある向きはコンタクトを取ってみるとよいだろう。
協力:ばたお(twitter:@BATAO_Hetare)さん
聞き手:猪俣信太郎
文責:上戸悟